独占禁止法審査手続きと適正手続の保障

 近年、日本企業が国際カルテル容疑で調査を受け、海外で巨額の罰金を科されるケースが増えています。既に数十人の日本人の役員や従業員が海外で有罪判決を受け、刑務所に収監されています。もちろん、カルテルは自由経済において市場の競争を阻害する犯罪です。しかし、日本の場合、自動車産業に見られるように、自動車メーカーの下で複数の部品メーカーが協力して部品の研究開発、コスト低減に勤めてきたという経緯があります。価格情報の共有や開発後の生産割り当ては独禁法違反にあたります。米国の航空産業でも、過去、同様の問題が生じましたが,米国では、独禁法に抵触しない共同開発の仕組みを作りました。日本でも、これからはこういう仕組み作りが必要です。国際カルテルの調査では、各国の独禁法当局が協力して調査を行います。それだけに、日本企業だけが国際カルテルの調査で不利な扱いを受けることのないようにすべきです。

 現在、独占禁止法違反容疑事案に関わる公正取引委員会の調査、審査手続きについての議論が進んでいます。自民党政務調査会競争部会から適正手続の保障について、いろいろな提言がなされましたが、公正取引委員会は現行手続きを基本的に維持し、低減の課題については今後の検討に委ねました。現在、審査手続きについてのガイドラインが検討されていますが、これは法的に認められた手続きがいままで明確でなかったことを明らかにする内容に留まっています。

 独占禁止法の調査では、公正取引委員会は任意あるいは間接強制を伴う形で事業会社に様々な情報提供を求めてきます。実際には、任意の事情聴取と言いながら長時間にわたり外部との接触を認めない聴取がなされたり、極めて広範な書類提出要求がなされたり、弁護士の同席や弁護士との横断がなかなか認められなかったり、という問題が生じています。あるいは、書類提出に応じた際に直ぐにコピーを取らせてもらえないケースもあります。また、海外では認められていることが多い弁護士ー顧客間の秘匿特権も日本ではみとめられていません.公正取引委員会は、手続保障を拡大すると真相究明の妨げになると、濫用の恐れがあることを理由に現行ルールを維持しようとしています。確かに、最近はカルテルなどのやり方は巧妙になり、公正取引委員会の調査も困難を極めることが多いでしょう。しかし当事者の陳述頼りの調査は刑事事件の自白偏重と変わりません。弁護士と相談した内容を提出させられるとすると、法的問題を防止するために弁護士と相談した方が、相談しないよりも不利になるということになりかねません。企業が真相を究明しようとして内部調査を実施しようとしても、資料は持ち去られ、弁護士との協議内容も提出対象となるのでは効果的な内部調査はできません。公取の立ち入り後でも違法行為を申し立てれば刑の減免の可能性があるため、立ち入りの際に書類提出要求を拒否し制裁金を科されても、内部調査をしっかりやった方が企業の損失は少なくなるという変な事態も生じかねません。適正手続を保障することによって真相究明が進むというのが刑事司法の考え方でもあります。行政手続でも適正手続きをしっかり認めていくべきです。また、大企業は独禁法調査手続きにおける法的権利を多少は分かっていても、中小企業にはそれだけの知識・経験がないのが普通です。中小企業のため時には、今のガイドラインではまだ不十分です。引き続き、適正手続の強化を図っていくべきです。

 国際カルテル調査の場合には、こうした手続きで日本企業が当局から受けた調査の結果は、各国で共有されかねません。海外の事業者は適正手続で守られた中で調査に対応し、弁護士との相談結果が当局の手に渡る事もありませんが、日本の企業だけはそういうことが起きかねないのです。これは、やはり何とかしなければいけないのではないでしょうか。米国では、会社だけではなく、役員個人も厳罰に処せられますので、下手をすると日本人が米国に引渡しを求められる恐れもあるのです。

 独禁法調査における適正手続保障の強化は、グローバル・ビジネス時代には不可欠です。今後も引き続き、独禁法調査手続きの適正化を働きかけて行きたいと思います。